2017年9月24日日曜日

333:ドイツ総選挙での極右の進出に大騒ぎしないようにしましょう

 本日9月24日は、ドイツの総選挙の投開票日です。

 この写真は22日にあったSPD・社会民主党のベルリンでの選挙戦の最終日の選挙集会の様子です。ベルリンで最も由緒あるゲンダーメン広場で行われました。推定で4000から5000人ほどの参加者でした。(写真はすべて梶村です)
アンゲラ・メルケル首相に対する対抗馬として同党が擁立したマーティン・シュルツ前ヨーロッバ議会議長も、かなり力の入った演説を50分近くしました。


 会場に掲げられた選挙スローガンは未だに差のある「男女の賃金を平等にせよ」というものです。

 また、この日の特別な応援ゲストは、日本でも⇨「黄色い星を背負って」などの著作で知られているインゲ・ドイッチュクローンさん(1922年生まれ)でした。
 彼女については4年前の前回総選挙の結果が出た際の報告にも日本の秘密保護法との関連でこのブログにも登場していただきました。⇨207:特定秘密保護法は民主主義者を暗殺する。ドイツは暗殺の歴史をどのように官民で記憶しているのか。
今年95歳になるこの人物の両親は、ワイマール時代からの社会民主党員で、彼女もホロコーストを生き延びてからも一貫した党員であるとこの選挙集会の前座でのインタヴューで話していました(上の写真)。
 シュルツ党首は演説の途中で演壇から降りて彼女に謝辞を述べました。その上で、「1933年のナチス権力掌握後の帝国議会でナチスの全権委任法に反対し、多くの犠牲を出した政党として、極右の国会進出は許せない」と述べました。⇨麻生太郎の大好きなこの法律の歴史についてもかつて報告した通りです。

 集会でのこの情景が最も印象に残りました。 なぜ彼女が老体を押してこの選挙集会に出てきたかは明らかです。ついにドイツの国会にも極右政党が登場することを危惧しているからです。「極右にどうすれば対抗できますか?」との司会者の質問に、彼女は「難しいことではありません、それそれが行動すればいいのです」と答えて大喝采を受けていました。
  
 わたしもこの国の戦後の総選挙はその半数以上を体験して、取材するのも8回目です。
 それぞれ特徴がありましたが、今回は特に、上記の集会でも顕著なように、戦後間もない西ドイツの第一次の1949年の総選挙に、DP(ドイツ党)という極右政党が国会に議席を占めて以来の出来事として、極右政党AfD(ドイツのための選択肢)が10%から13%ほどの得票率で一挙に連邦議会に進出することは、残念ながら確実です。

ここに追加です。例えばBBCの日本語版までが、先日から  

⇨ドイツ総選挙 戦後初めて右翼国家主義政党が議席獲得か 

と報道していますが、これは間違いです。上記のように戦後初の1949年の連邦議会選挙では、DPという極右政党が議席を得て、なんとアデナウワー首相はこの政党と部分的に連立まで組んだことがあります。今回の極右政党の進出は従って史上二度目のことになります。日本語でも簡単ですが解説があります。⇨ドイツ党
 
 そのため本日の選挙の結果ドイツの政局がかなりショックを受けて動揺することは間違いありません。
 社会民主党が、さらに得票率を落とて戦後最悪の危機に直面すれば、次期メルケル政権の連立交渉が難渋し、それが不安定な世界情勢にネガティブな影響を与えることも十分に考えられます。

 しかしみなさん、ここでついにドイツの国会に極右政党が登場しても、この国の民主主義の基盤が脅かされることは、全くないので安心してください。ドイツの極右の登場に大騒ぎしないようにしてください。
 これについては、ここブログでは触れていませんが、梶村のドイツ難民問題に関するこれまでの『世界』誌への寄稿、20162月号「メルケル首相の決断と難民問題で『明と暗』に引き裂かれるドイツ」、同6月号「ドイツは難民問題を解決できるか」、同11月号「難民問題で暗転するメルケル政権」などでは、すでに述べてあります。

 また昨年の秋に行われた立命館大学での講演でもはっきりとそれがなぜなのか歴史的、社会的背景を述べてあります。 この講演の内容は紀要などで近く公表されるとのことですので、そうなればお知らせいたします。
 ⇨【第3回】10/21(金)「難民・移民・アイデンティティ―ドイツの経験」
報告者:梶村太一郎(ジャーナリスト)
       石川真作(東北学院大学)
コメンテーター:佐々木淳希(京都大学)
司会:高橋秀寿(立命館大学)
 
 これを読まれれば、難民問題を嚆矢として勢いを増した極右政党が、なぜドイツでは定着できないかが理解できると思います。
 むしろこの国の民主主義をさらに強固にする試練の場になると考えています。
 次期国会ではそれが実証されますので、私も大いに楽しみにしてルポしたいと思っています。
 その意味で、本日の選挙は戦後ドイツ史での一つの節目となることだけは間違いありません。
 では、選挙結果が出た後の明日の朝から、極右たちの表情を、エッチら見にいくことにしましょう。早起きはつらいですが、舞い上がった極右の表情は、日本では日常ですがドイツでは滅多に見られませんからね。


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