2012年12月17日月曜日

136:「過去へ向かう右傾の動き」/ドイツ「南ドイツ新聞」の日本の総選挙に関する論評の翻訳/そしてメルケル首相は・・・


ドイツ紙南ドイツ新聞東京特派員による日本総選挙結果に関する12月17日同紙掲載分論評を以下に取り急ぎ翻訳します原文電子版はこちらでこれにはロイター配信映像もつけられていますがそれは省きます

=================================

Süddeutsche Zeitung 16. Dezember 2012 18:11

 Parlamentswahl in Japan 

  Ruck nach rechts in die Vergangenheit

Ein Kommentar von Christoph Neidhart, Tokio

日本の議会選挙   南ドイツ新聞2012年12月16日
過去へ向かう右傾の動き
東京、クリストフ・ナイトハルトによる論評

Konservativ bis stramm nationalistisch - bisher standen alle Regierungen Tokios rechts, doch sie haben sich zurückgehalten. Damit ist es nun vorbei. Der Wahlkampf der Siegerpartei LDP war vom bösen Ton und den Forderungen der Rechtsextremen geprägt. Und mit Shinzo Abe kommt ein Mann an die Macht, der von einem Japan der Vergangenheit träumt.
Japan rückt nach rechts, noch weiter nach rechts. Schon bisher waren die Regierungen stets konservativ, die meisten sogar stramm nationalistisch - auch die jetzt abtretende von Premier Yoshihiko Noda. Aber all diese Kabinette haben sich zurückgehalten.

保守的から強固な国家主義的まで=これまでの全ての東京の政権は右派であった、しかし彼らは抑制していた。しかしそれもここで終わりとなった。勝利した政党自由民主党の選挙戦は 悪質な響きと極右の要求に刻印されていた。そして安倍晋三という過去の日本を夢想する男が権力を掌握した。
日本は右傾化しており、さらに右傾化している。これまでも政権は常に保守的で、それどころか大半が強固に国家主義的であった=今退陣する野田明彦もそうである。しかし全ての内閣は抑制していた。

Mit diesem Klima ist es jetzt vorbei: Shintaro Ishihara, der einstige Bürgermeister von Tokio, der den Inselstreit mit Peking im Alleingang vom Zaun gerissen hat, sagt auch offiziell "Shina", ein Schimpfwort, wenn er von China spricht. Er fordert Atomwaffen für Japan und scheut sich nicht, laut über einen kleinen Krieg mit der roten Volksrepublik nachzudenken. Zusammen mit anderen Rechtspopulisten hat er den bösen Ton und die Forderungen der Rechtsextremen in den Wahlkampf eingebracht - und damit salonfähig gemacht.

このような雰囲気はここで終わった:これまでの東京都知事で、単独行動で北京との島を巡る争いの垣根を壊した石原慎太郎は、中国を語るとき「シナ」という蔑称を公然と使う。彼は日本に核兵器保有を要求し、赤い人民共和国との小戦争を考慮することもはばからない。彼はその他の右派ポピュリストたちと一緒に、この悪質な響きと極右の要求を選挙戦に持ち込んだ=こうしてそれらを社会に通用させたのである。

Seither kann Shinzo Abe von der Liberaldemokratischen Partei (LDP), Japans designierter nächster Regierungschef, endlich so reden, wie er denkt. In seiner erfolglosen ersten Amtszeit als Premier (September 2006 bis September 2007) hatte sich Abe noch nach China bequemt, um den Ausgleich zu suchen.
Das ist kaum mehr vorstellbar.

これにより日本の自由民主党の次期総理である安倍晋三は、彼が考えていることをようやく語ることができるのである。彼の失敗に終わった 最初の政権時(2006年9月から2007年9月)には、彼はしぶしぶながら中国との協調を追求した。もうこれもまずは考えられない。

Schon damals versuchte Abe, die Verfassung zu ändern. Ihr Paragraf 9 verbietet Japan jede Art Krieg, erlaubt ist nur die Selbstverteidigung auf dem eigenen Territorium. Abe will nicht nur diesen Friedensparagrafen abschaffen, er will auch die Menschenrechte beschränken und die Gleichberechtigung der Frauen streichen. Und in der Außenpolitik möchte er die sogenannte Kono-Erklärung widerrufen, mit der Japan eingestanden hat, dass seine Armee im Zweiten Weltkrieg Hunderttausende junge Frauen als Zwangsprostituierte aus Korea, China und Südostasien in Feldbordelle verschleppte. Kurzum: Der künftige Premier träumt von einem Japan der Vergangenheit.

すでにその当時、彼は改憲を試みようとしている。憲法9条は日本にあらゆる戦争を禁じ、自国領の自衛だけを許している。安倍はこの平和条項を廃棄しようとするだけではなく、人権を抑制し、女性の平等権を撤廃しようと望んでいる。そして外交政策では彼は、日本がこれによって自国の軍隊が第二次世界大戦時に朝鮮、中国そして東南アジアから何十万という女性たちを強制強制売春婦として野戦売春宿へ連行したことを認めた、いわゆる河野談話を撤回しようと望んでいる。手短かに言えば:次期首相は過去の日本を夢想している。

Keine nennenswerte Gegenbewegung

Die Regierungen in Tokio haben es bis heute versäumt, sich den Verbrechen gegen die Menschlichkeit ernsthaft zu stellen, die Japans Armee im Zweiten Weltkrieg begangen hat. Zwar haben mehrere Premierminister eher gewundene Entschuldigungen abgegeben, aber andere Politiker haben diese jeweils umgehend abgeschwächt.

語るに値する反対勢力の不在

東京の歴代政府は今日まで、日本の軍隊が第二次世界大戦で犯した人道に対する犯罪に真剣に対応することを怠ってきた。多くの首相たちが、遠回しに謝罪を表明はしはしたが、それらさえも他の政治家たちにより直ちに弱体化されてきた。

In den letzten Jahren erhöhten China und Südkorea den Druck auf Japan, es müsse seine üble Historie aufarbeiten. Zur Antwort flohen Japans Regierungen, die es seit zwei Jahrzehnten nicht schaffen, das Land aus seiner Dauerkrise zu führen, in den Nationalismus. Viele Wähler sind zwar empört über China, aber sie wollen keineswegs ein nationalistisches Japan.

ここ数年間、中国と韓国は日本に対し醜悪な歴史を克服しなければならないと圧力を高めてきた。 それへの回答として日本の歴代政権は、国を継続するこの危機から導きだすことにここ20年間成功せず、国家主義へと逃げ込んでいる。多くの有権者は中国に怒ってはいるものの、しかしながら彼らは決して国家主義的な日本を望んではいないのだ。

Eine nennenswerte Linke gibt es in Japan schon lange nicht mehr. Nippons Politiker erklären gerne, die Grundhaltung ihres Volkes sei eben konservativ. Sie haben dabei vergessen, dass es in der Nachkriegszeit starke sozialistische und kommunistische Parteien und eine wuchtige Studentenbewegung gab. Diese Linke hat sich nicht in Luft aufgelöst. Sie wurde einerseits unterdrückt und andererseits in den politischen Mainstream integriert und damit erstickt. Wie man heute weiß, half die CIA mit Geld, in Japan die Rechte an der Macht zu halten. Nur ein konservatives Japan ist eine zuverlässige Militär-Basis im Pazifik vor dem asiatischen Kontinent.

すでに長い間、語るに値する左派は日本には存在していない。ニッポンの政治家たちは彼らの国民の基本姿勢は保守的であると喜んで説明する。しかし彼らは、戦後に強力な社会主義と共産主義政党、それに激しい学生運動があったことを忘れている。これらの左派は霧散してしまったのではない。彼らは一方で弾圧され、他方で政治本流に統合され窒息してしまった。今日では周知のことだが、CIAはその資金で右派が権力を維持することを援助したのである。保守的な日本だけがアジア大陸に面した太平洋の信用できる軍事基地であるのだ。

Nach Fukushima wurde deutlich, wie Atomindustrie, Wissenschaft, Politik und Leitmedien unter eine Decke stecken: das "nukleare Dorf" Japan. Die Kungelei beschränkt sich nicht auf die Nuklearpolitik. Die großen Medien sind abhängig von der Industrie, sie waren stets eng mit der Partei LDP verbandelt - so eng, dass sie nach dem Regierungswechsel 2009 von der "Opposition an der Macht" schrieben. Sie haben den - keineswegs linken - Demokraten von Premier Noda nie eine Chance gegeben. Eine Gegenöffentlichkeit entsteht in Japan erst allmählich.

フクシマの後にはっきりしたことは、いかに原子力産業界、学界、政界、そして主要メディアがひとつの覆いの下で結託しているかである:すまわち「原子力村」日本である。大きなメディアは、常に自民党とつねに緊密に結びついている産業界に依存しており、2009年の政権交代時には「野党が政権に」と書いたほど緊密である。彼らは=全く左派でもない=野田首相の民主党にすら決してチャンスを与えようとはしなかった。これへの日本の対抗的な公衆的言論は、ようやくゆっくりと成立しつつある。(訳責:梶村太一郎)

==========================
梶村のコメント:
ドイツの有力紙が、日本の大メディアを正面から批判した論評として、大メディアの上部の皆さんは、謙虚に耳を傾ける勇気がありますか? ほとんど無いでしょうね。それこそが国際社会で日本をここまで雪隠詰めにした大きな原因のひとつなのです。あなた方も古い過去を反省しないで戦後日本を生き延びた過去の亡霊なのです。
ここまでくれば、反原発デモの現場で「マスコミは帰れ!」と避難される惨状を恥じる感性を持っている現場の記者の皆さんの良心と勇気に期待するしかないといえましょう。

ここで採り上げたリベラル紙だけでなく、保守派の有力紙も同様にほぼ例外なく安倍政権を危険視しています。これだけでも安倍政権の日本が、世界共同体から剥離することは、初めから判り切ったことなのです。

メルケル首相「まず待ちましょう」17日首相官邸
それをよく示したのが、メルケル首相の本日(17日)の外国人記者協会との記者会見でした。日本メディアからの安倍新政権に関する質問に対して「新政権が何をするかまずは待ちましょう」と、また尖閣問題に関しては「とても複雑です」と極めて注意深く、冷静に答えました。
通常であれば、かつてドイツのハイリゲンダムでのG8で既知である安倍氏の再選を喜ぶとの、最低限の外交辞令もあってしかるべきですが、それもありませんでした。 すなわち安倍新政権は初めから、「何をするか判らない」と距離をおかれているのです。日本は無視されつつあるのです。寂しい限りです。
それはそうでしょう。眼を丸くして探しても、世界中で安倍新政権を歓迎する報道は、読売新聞とサンケイ新聞ぐらいしかないのですから。こんなことは少なくとも戦後史で初めてではないでしょうか。

なお、日本の右傾化を警戒する論調に関しては、→前回。またわたしの第一次安倍晋三政権批判は→こちらを参照して下さい。

0 件のコメント:

コメントを投稿