2012年6月25日月曜日

97:「世界市民の声」その2:「アメリカは何をためらっているのか」松村昭雄、「独立した査察評価の必要性について」G.トンプソン

「世界市民の声」のその2弾として、これも大沼安史氏がブログで英語原文を翻訳して紹介されている二つを紹介させていただきます。転載を許して下さった筆者の松村氏、訳者の大沼氏の両氏にまずお礼申し上げます。

元国連アドバイザーの松村昭雄氏が、特にフクシマの危険性を警告し、先の6月11日に氏の英文プログに投稿され、世界中で大きな反響を起こしている呼びかけ「米国政府は何をためらっているのか?」と、それに対するアメリカの原子力技術の専門家であるゴードン・トンプソン氏の18日付同ブログへの回答です。
このお二人の「対話」を読めば、日本のフクシマを巡る世界中での懸念がどれほどのものであるのかが理解できるはずです。

わたしのブログでも紹介した→「日本の核の男爵・中曽根康弘氏 」が首相時代に唱えて実現しようとした「不沈空母」である原子力大国日本は、フクシマ事故で船腹中央に魚雷を喰らっており、放置すれば核兵器数百発分の放射性物質を地球上に流出させる危険が日々続いているのです。このままでは、日本が自爆して沈没するだけでなく、人類史最悪の核汚染が防げなくなります。
これは、杞憂ではなく事実です。野田政権に対処する能力がまったくないことも世界中は認識しています。

訳者の大沼氏は→ブログで次のように書いています。わたしも全面的に賛成です。

-->
-->
今、死活的に最も重要なことは、世界破局要因であるフクイチの現在進行形の危機を、どう抑え込むかということと、そのための実情の把握である。いつまでも脅威を隠蔽し、矮小化していてはならない。「事故調」の次は「実態の調査」だ!
 世界を、人類を、地球を救う……これは大袈裟でもないでもない、私たちに与えられた最大の課題である。「フクイチ対策国際調査委員会」を、日本のリーダーシップで早急に立ち上げなければならない。


以下引用します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


   米国政府は何をためらっているのか?
       2012年6月11日 
        松村昭雄
   原文→ (What Is the United States Government Waiting for? )
           大沼安史 訳 


福島第一原子力発電所4号機の倒壊により、世界はどのような破局に直面するか、世界 の科学者たちが次々に意見を述べ、それをネットで掲示する事態が続いています。そこで 発せられたメッセージはシンプルで明確なものです。日本政府が自ら、解決に動くことは ない。米国が前に踏み出すしかない――しかし、動きは、まだ何も出ていません。 

野田、オバマ会談
 →村田光平・元スイス大使による、参議院公聴会での意を決した訴えと、ロバート・アル ヴァレズ氏による、フクシマにチェルノブイリ事故の実に85倍ものセシウム137があ るという、すでによく知られた推定値を紹介した本ブログの記事を、100万人もの日本 人が読んだと知って、私は驚きました。記事は世界176ヵ国の人びとによって読まれ、 村田大使とロバート・アルヴァレズ氏の警告は、多くの国々のネットや活字メディアで引 用されて来ています
 
 しかし、こうした世界規模の懸念にもかかわらず、日本政府が、フクシマ・ダイイチで 高まる危険に取り組もうとしているとは到底、見受けられません。状況がいかに危険なも のかを伝えるため、私はこの4月、日本政府や自民党の指導者たちと会うべく、日本に飛 んだのです。村田大使と私は、官房長官の藤村氏と会いました。藤村長官は私たちの訴え を、4月30日のオバマ大統領とワシントンで会談する野田首相に、その出発前に伝える、 と確約して下さいました。
 けれど、とても残念なことに、フクイチに対する独立した査察チームの派遣と、国際的 な技術支援を受けいれるアイデアは、公に語られることはありませんでした。
 私はまた、日本の政治指導者の多くが、東電から何も聞かされていないため、世界破局 の恐れに気づいていないと聞いて、ショックを受けたのです。
 私は彼らのものの考え方を、なかなか理解することができませんでした。フクシマ事故 が引き起こした結果を評価し、それに対処するのに誰が最もふさわしいかを判断するために、どうして日本の政治指導者たちは、ひとつのソース(それも明らかに、利害の衝突が 内在する)に頼っているのか? この近視眼の結果、日本の指導部は状況の像をハッキリ 見ることができず、日本の国と日本の人びとをどこに追いやろうとしているか理解できな くなっているのです。
 フクシマ・ダイイチが、現時点において、科学者の誰もが解決策を持ち合わせていない 巨大な危険であり続けている理由を、ここで簡潔に述べたいと思います。
以下に掲げる事故がひとつでも起きたら、フクシマ・ダイイチの全域に対して深刻な危 険を及ぼします。 

 1)1、2、3号機では完璧な炉心溶融が起きています。日本の当局も、核燃料が圧力 容器の底を抜けてメルトスルーしている恐れを認めています。この結果、意図せざる再臨 界(連鎖反応の再開)、あるいは強烈な水蒸気爆発も起きかねないとの観測も出ています。 そのどちらが起きても、環境に対する放射性物質の大放出を引き起こしかねません。
 
 2)1号機と3号機からは、とくに強烈な放射能が発生しており、近寄れない場所にな っています。このため、フクシマの事故発生以来、いまだに補強工事は行なわれていませ ん。強い余震の襲われた時、耐えることができるか、定かではありません。 

 3)損傷した各号機に、当座の措置として設置された冷却水の管は、瓦礫や破片の間を くぐり抜けています。防護されておらず、ダメージにはとても弱いものです。このため、 核燃料の過熱させる冷却システムの停止につながり、さらなる放射性物質の放出を伴う核 燃料の損傷、新たな水素爆発、あるいはジルコニウム火災や使用済み核燃料プールにおけ る溶融さえも引き起こしかねません。 

 4.)4号炉の建屋および骨格は重大な損傷を受けています。4号機使用済み核燃料プ ールは総重量1670トン、それが地上100フィート(30メートル)の高さにあり、 しかも外壁のひとつは外側に撓んでいるのです。もし、この4号機プールが倒壊したり水 が抜けたりしたら、強烈な放射能の照射で、原発敷地の全域が立ち入りできなくなります。 フクシマ・ダイイチには、全ての核燃プールを合わせると、チェルノブイリの85倍もの セシウム137が貯蔵されているのです。

 以上、いずれの事態が起きても、フクシマ・ダイイチの全域に対して重大な結末をもた らし得るわけです。

 日本政府は人びとの求めやメディアの圧力で、5月26日、環境相であり原発担当大臣 である細野豪志氏を4号機に派遣しました。細野氏は、半時間、4号機の仮設階段の上で 過ごしました。そして驚くなかれ、核燃プールの下支えは大丈夫なようだ、と断言したの です(かくして、私たちが言い続けてきた、独立した査察チームを入れよ、とのリクエス トは、たったの30分間で、ものの見事に達成されたわけです。ありがとう、日本!)。細 野大臣はまた、4号機は震度6の地震にも耐えられると記者会見で発言しました。大臣が どうしてこんなことを言ったか、私には理解できません。日本の地震学者たちが今後3年 以内に90%の確率で震度7の地震が日本で起きると予測していることは、私たちが警告 しているところであります。 

 細野大臣は、震度7の地震は想定外だと言い訳の道をつくっているのでしょうか? 

 日本の政府は、こうしたパフォーマンスを真に受けるほど、人びとは愚かであると考え ているのでしょうか? もしも彼らがそれほどに厚かましくあるのなら、それは恐らく、 日本のメディアは自分たちの思い通りに報道するものと心得ているからでしょう。これが もし、ありきたりのことであれば、私としても、政治的なパフォーマンスと見なし、無視 することができるかも知れません。しかし私たちはいま、人類がこれまで経験したことの ない世界破局について語り合っているのです。「腹立たしさ」そして「失望」という言葉に、 日ごと新たな意味が追加されています。

 そこで私はワシントンに行くことを決意しました。かつて国連で知り合った旧友の、退 役した米陸軍中将に会い、国際的な安全保障上、フクシマがいかに緊急の優先事項である か、それがどれほど米国の即時行動を必要とするものなのかを訴えることにしたのです。 

 旧友の退役陸軍中将は私の意見に同意しました。彼もまた、フクシマについて、今すぐ、 行動が必要であることを非常にハッキリ、見てとったのです。同時にまた、関係するはず の当事者全員の動きが、どうしてまたこうも鈍いのかと当惑もしていました。

 事故からすでに1年と2ヵ月が過ぎ、米政府がなおもためらい、待ち続けていることは 不思議なことであります。4号機の査察は、優先されるべき国家安全保障上の問題です。 この14ヵ月の間、何事もなかったことは、ただただ幸運だった、に過ぎません。そして、 この重大な挑戦に立ち向かうかどうかは、あらゆるオピニオン・リーダーにとっての試金 石であります。しかし、今のところ、その挑戦に立ち向かってはいません。私はこれから の14ヵ月について、またも幸運に頼ることはできないと思っています。 

 私はワシントンで、親愛なるボブ(ロバート)・アルヴァレズとも会い、数時間にわたって話し合いました。私は彼に、フクイチにおけるセシウム137の貯蔵量を算出してくれ たことに感謝しました。単純明快な数字で示してくれたおかげで、この問題に対し、一般 の人びとが関心を寄せるようになったからです。アルヴァレズ氏はこう言いました。フク シマの4号機には、チェルノブイリの10倍のセシウム137がある、というのは低い見 積もりだが、科学的な反論は浴びずに済む。チェルノブイリの50倍と言えるかも知れな い。ということは、フクシマ・ダイイチの核燃プール全体で、チェルノブイリの85倍の 放出量になるという推定にしても、過小評価に過ぎないと批判されることもあり得るわけ だ、と。 
 そして彼――アルヴァレズは、4号機のセシウムがチェルノブイリの10倍であろうと 20倍であろうと、問題ではない、と言ったのです。とにかく4号機のセシウム137が 引き鉄となって、日本の国土の全域は避難ゾーンと化すことになるだろう。その強烈な放 射能は東アジアや北米に及び、放射性降下物は今後、数百年にわたって滞留し続けること になろう、と。 

 彼は私にこう尋ねました。日本の指導者たちはこのことを理解しているだろうか、と。
 私の答えは「イエス」でした。彼らは頭ではたしかに理解している。ただし、現実的な 感覚としては理解していない。この5年間で6人目の野田首相には、東電以外の、独立し た査察チーム、および国際的な技術支援を求める決断を下すだけの政治な力はない、と。 

 私はアルヴァレズに、日本がその第一歩を踏み出さないことを説明するためにワシント ンに来たのだと言いました。日本の指導部には自ら行動を開始し、政治的に生き残るだけ の力もなければ、次に来ることを思いわずらわず、最初の一歩を踏み出す勇気がない、と。 

 1990年に私たちが開いた「モスクワ・グローバル・フォーラム」のゲスト・スピー カー、ロバート・ソコロウ博士はプリンストン大学の教授(機械・航空工学専攻)です。 そのソコロウ博士が、2011年3月21日付けで、世界的な核問題専門誌、→『核科学者報』 に、こんなエッセイを書いています。 

 私たちは何度も繰り返し、「アフターヒート(溶融核燃料の熾=おき)」というコンセ プトを説明しなければならない。熾とは消すことのできない火。そしてそれは、核分裂 の破片から今この瞬間に生まれ、数週間後にも生まれ、数ヵ月後にも生まれる熱。しか し、この熱はなんとしても取り除かなければならない。ジャーナリストたちは、この「ア フターヒート」というコンセプトを伝えるのに悪戦苦闘して来た。自分たちも、自分た ちが書いて伝えるべき相手の人のほとんど誰もが知らないコンセプトだからだ。
 
 ソコロウ博士の言うように、未知の出来事を前にした政治指導者たちに行動を取るよう に納得してもらうことは、たしかに、とても困難なことです。今回のフクシマの場合、総 選挙のサイクルではとても考えられない、史上空前の破局が提起されているわけですから。 

 同様に私は、外国の指導者たちに対して、何度も繰り返し、日本の野田首相はコンセン サスの作り手であって、リスクをとる人ではない、と説明しなければなりません。彼が、 この4号機核燃プール問題というチャレンジに向き合うことはないはずです。

 だとするならば、答えはひとつ。論理の帰結として、自ずと米国政府が唯一の行動可能 なプレーヤーになるわけですが、なぜ彼らがこの問題に沈黙を続けているか、私としては 理解に窮するところであります。 

 もしも仮に、この世界破局が現実のものになった時、世界の歴史書はこれをどう書き記 すことでしょう? 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

日本の核災害リスク――独立した査察評価の必要性について
          2012年6月18日
ゴードン・トンプソン 「資源・安全保障研究所」常任理事 

原文→
-->Nuclear Risk in Japan – The Need for Independent Assessment

       大沼安史 訳 


 

 親愛なる松村昭雄へ 

 あなたが2012年6月11日付けのブログでお書きになった「米国政府は何をためら っているのか?」に対し、一言述べさせていただきます。あなたのブログは、福島第一原 子力発電所の事故による現下の放射能リスク、とりわけ4号機の使用済み核燃料プールの リスクに対し、正面から取り組むものでした。

 あなたの懸念は、正しい。4号機の放射能リスクは、プールの使用済み燃料の全てが撤 去され、ドライ貯蔵施設に移される日が来るまで、高いまま、推移することでしょう。使 用済み核燃料のドライ貯蔵施設への移管が完了するまでの期間において、リスクを低減す る選択肢は、いくつかあります。しかし、ここで注意していただきたいのは、なにもフク シマ・ダイイチの4号機だけが、高いリスクを抱えているわけではない、ということです。 日本の原子力セクターには、さまざまなリスクが存在している。そして、その一方で、そ れらのリスクを低減する選択策も存在しているのです。

 あなたはフクシマ・ダイイチのリスク、およびリスク低減策を評価する独立的な査察評価を呼びかけました。そうしたアセスメントが適切に行われるならば、それはとても有益 なものになり得ます。これまでの経験からすると、原子力産業や日本政府の主要研究機関 は、4号機のリスクや、そのリスクを低減する方策について、十全なる認識に至っていな いかも知れません。

 これまでさまざまな場所で、原子力セクターにおけるリスク、およびリスク低減策につ いての独立的な評価が行われて来ました。その一例が、1978-1979年に行われた 「ゴアレーベン国際検証」です。その検証に私は、国際的な20人の科学者チームに参加 する特権に預かりました。当時の西ドイツ、ニーダーザクセン州政府が行ったこの国際検 証は、ゴアレーベンに核燃料センターを建設する提案にメスを入れるものでした。検証の 結果、得られたものは、放射能リスクやその他の問題に注意を向けるものになりました。 国際検証はドイツの原子力政策に重大な影響を及ぼしたのです。

 ブログであなたは、米国政府がフクシマ・ダイイチのリスク、およびリスク低減策につ いて評価できるかも知れない、と示唆しておられました。残念ながら私としては、米政府 が、ほんとうに独立的な評価を行うとは思えません。国立研究所など米政府機関のいくつ かは、必要な技術的知識を持ってはいます。しかし、米政府が独立評価を行うとなると、 たぶん、原子力規制委員会に主導的な役割が与えられることになるでしょう。米原子力規 制委は、使用済み核燃料をプールで貯蔵するリスクについては、そのリスクそのものに対 する理解でも、リスクを低減させる行動の面でも、貧弱な実績しか残していません。

 リスク、およびリスク低減策の独立的な査察評価は、日本自身が行い得るものです。市 町村や県、あるいは民間団体が行うこともできるでしょう。その場合、国際的な専門家、 および日本国内の専門家たちも加わって行われなければなりません。日本には、有能な専 門家がたくさんいる。このことを明記するのは、重要なことです。日本の原子力関連機関 は、さまざまな点で不十分なところがありますが、専門家個人のレベルでは、有能かつ客 観的な能力の持ち主に欠ける、ということはありません。 

  今後とも、どうか、よろしく 
 
    ゴードン・トンプソン

ゴードン・トンプソンはマサチューセッツ州ケンブリッジの→「資源・安全保障研究所 の常任理事であり、同州ウースターのクラーク大学「ジョージ・パーキンス・マーシュ研 究所」の上級研究員を務めてもいる。

2 件のコメント:

  1. このコメントはブログの管理者によって削除されました。

    返信削除
  2. 梶村です。

    フクシマ事故を巡る陰謀論は削除いたします。

    返信削除